ART iT Japanese-English bilingual art quarterly

Interview
宮永愛子
ポートレート:石川奈都子
取材・文:小崎哲哉
pipi
Rowing Style, 2008
Installation view at Kyoto Art Center
Photos Ishikawa Natsuko
pipi
Aristocratic Pierrot, 2007
Napthalene, mixed media
Photos Ueno Norihiro
Courtesy the artist

白く、儚(はかな)く、日ならずして消えてゆく作品が多い。例えばナフタリンを用いたオブジェ。開幕日には完全な姿を見せていた半透明のドレスや靴や眼鏡は、展覧会が終わるころには原形を留めず、朽ちてしまった花のように無残に、しかし美しく崩壊している。

「でも、消えていくものを作りたいと思って作っているんじゃありません。むしろ、残したいと思っているから、作品にしているんです」

この2月には『漕法』と題し、もとは小学校の教室だったギャラリーに魚網のインスタレーションを展示した。滞在中だったエディンバラで知り合った女性の家を五島列島に訪ね、彼女の祖父母にあたる88歳の漁夫夫婦から編み方を教わった。家族や友人とともに編みあげた網を、旅して回ったヨーロッパと五島の海水に漬け、注意深く塩水を飽和させて「糸に塩を育て」る。網に付着した塩の結晶は樹氷のように輝き、ギャラリーの床には粉雪のような白い粒がうっすらと堆積していた。使用した海水は900リットル以上だという。

「京都生まれ、京都育ちで、海は遠い存在でした。でも去年は海を渡ることがあって、いろんな海を見せてもらいました。素晴らしい人との出会いもたくさんあって、それでこういう匂いの作品ができたんです」

実家は、富本憲吉や北大路魯山人も作品を焼いた名門「宮永東山窯」。魚網の個展と同時期に、工房に残された未完成の器をあらためて焼き、会期と人数を限定して「貫入」の音を聴かせる『景色のはじまり』を開催した。器に掛けた釉薬が膨張と収縮の過程でひび割れ、それに伴って生じる金属的なほのかな音だ。

「忘れたころに鳴るんです。普通の陶器とは違う値で調合したので、条件が整えばほぼ永久的に音が生まれます。祖父か曾祖父が焼いた器だと思いますが、止まっていた時間をあらためて始動させられないかと思って、もう一度自分で焼いてみました」

「東洋的」「仏教的」とよく言われるが、そんなつもりはない。ただ、海も島も山も、人と人を取り巻く景色も、過去も現在も未来も、すべてはつながっていると思う。自分は人類の歴史の一部であり、何かをつなげ、続けることはやっていきたい。

「いろいろな作品群を作っていますが、自分の中ではすべて関連しています。最近、自分が紡げる糸は何本もあるわけではなく、1本の糸を撚って太くしていくことが大事だと気がつきました。記憶に残る忘れられない作品づくりを目指したいですね」

 

初出:『ART iT 第19号』(2008年4月発売)



宮永みやなが・あいこ
1974年、京都市生まれ。京都造形芸術大学美術学部彫刻コース卒業後、東京藝術大学美術学部修士課程修了。2006年にACCの助成で渡米し、07年には文化庁新進芸術家海外留学制度により渡英した。08年5月7日〜6月7日、アートコート ギャラリー(大阪)のグループ展『お釈迦様の掌』に「域(さかい)」を出品予定。www.artcourtgallery.com
宮永愛子HP: www.aiko-m.com