丸山直文展――後ろの正面

Installation view
Photo Yamamoto Tadasu
Courtesy Meguro Museum of Art

gray, 1992
Acrylic on cotton, 183×314 cm

face6, 1995
Acrylic on cotton, 91×73 cm

appear, 2008
Acrylic on cotton, 183×366 cm

one evening, 2008
Acrylic on cotton, 291×181.8 cm
Collection of the artist

meltwater, 2008
Acrylic on cotton, 276×134 cm
Collection of Shiseido Arthouse
Photo Yamamoto Tadasu
9.27 - 11.9
目黒区美術館
文:白坂ゆり
水面をすーっとカヌーが滑ると、映り込んだ景色が静かに揺れる。丸山の絵画は、ゆらゆらと浮遊するような「眺め」として見ると気持ち良い。相反する要素を働き合わせる絵画的構造や、「絵画の終わり」と言われたモダニズムの終焉期に絵画を始めた経歴と絡めて読み解けば、膨大な言葉が必要となる。しかし、そうした重力を感じさせない清々しさを持った絵画なのだから、通り過ぎるような軽快さで書ければいいのだろう。
キャンバス地に下地処理をせず、水で濡らしてアクリル絵具で描くステイニングという技法で描かれた、具象でもあり抽象でもある絵画。丸山のステインは、80年代末、キャンバス地がなくなり、ファッションを学んでいた頃の余り生地に描いたことから始まった。以来、独自の手法で、新たな領域を切り開いてきた。本展では、会場に収まりきれない試行錯誤の20年が、点と線が空間的につながるよう苦心して構成される。
展覧会は、ベルリン滞在を経た2003年の転換期から始まる。帰国後、見る者と共有できる具体的なモチーフを描きながら、抽象性を孕ませるようになった。朝焼け色の川を漕ぐカヌーを描いた、上下2枚組の「color of river」。下の絵の水面に映る人物が消えて幽霊のようであるのが、ステイン独特のものの現れのようだ。「絵具は布の表から裏に染みて、実から虚の世界へと移り行く。すなわち描かれるものと消えていこうとするものの間に、非実体的な空間が生まれる。偶然によって意識的なコントロールから外れる部分があるのも良かった」と丸山は言う。
有機的なフォルムを描いた初期抽象画(1988年〜92年)は、床のカーペットをはがした、染みを露にした部屋に並ぶ。一方、03年以降の近作や新作は、リノリウムで床を張り直したホワイトキューブに展示され、床に映り込み、イメージが浮遊するようだ。見比べれば、アトリエをモチーフとする茫洋とした空間や、顔であって顔でない絵画など、ベルリンへ発つ前の90年代半ばまでの作品が、近作へとつながってくる。
蝶や人、水面といったモチーフや飛び交う色斑は、分散する奥行きをつくり出すためや、動きや変化、映り込みといった実体なきものを描くためである。降ってくるような色斑に目がくらむ「appear」は、色を絵具という物質から解放し、純粋な光として提示しようとした作品だ。
一方で、「これまで封印しようとしてきた手の痕跡や絵具の物質感を、今後は出していきたい」と丸山は言う。「one evening」では、手の勢いに任せたタッチやストロークを活かし、「meltwater」では、後景の空をベタ塗りにし、ステインで描かれた前景との物質性の違いを表している。
描き続けていくモチベーションを高めるための、1枚1枚が新しい冒険。さらにそれらが、大量のドローイングから成り立っていることを最後の部屋で知る。「後ろの正面」。ぐるりと1周して、また新たな旅立ちだ。
登録日:2008年12月09日