ART iT Japanese-English bilingual art quarterly

展覧会レビュー

サスキア・オルドウォーバース



Placebo, 2002
Video, 6min.
Voice-over: Sukie Smith
Courtesy Maureen Paley, London

4.25 – 7.13
森美術館 (東京)

文:玉重佐知子

白いベッドが置かれた病室。何もかもが白いその部屋に人影はない。語り部である主人公の女性の言葉で物語は始まる。外科医である愛人が無理心中を試み、彼の運転する車は衝突事故を起こす。そのため、彼女は一日のわずかしか覚醒できない状態で身を横たえている。意識が朦朧とした中で、彼女は愛人の真実を知る。他に妻がいるはずの愛人に妻はなく、外科医でもなかった。愛人の哀しい嘘の手がかりをたぐり寄せながら、彼女は自分が愛していたのは虚構の人格であったことを悟る。背景に流れる映像は美しくも哀しい。部屋は海底に沈んでいく船の中のように、流れ去る。白い壁も家具もすべて、白い血を流すようにゆっくりと。真実だと信じていた世界は存在せず、すべてが崩れ、流れ去ってしまう。その映像美、一人称の語りは魔法をかけるように観客を物語に引き込む。映像を見終わったとき、一瞬胸に痛みが走る。まるで、自分が彼女として生きた夢から覚めたように。ロンドンを拠点に活躍するオランダ人作家、サスキア・オルドウォーバースの作品「プラシーボ(偽薬)」(2002年)だ。彼女の映像作品では、人が全く登場しない無機質な風景の中、近未来の「入り組んだ物語」が一人称で語られ展開する。「新聞や実体験を少しずつ積み上げ、1〜2年かけて作品を練り上げます。イメージはCGのように見えますが、ミニチュア模型をつくって、水中で撮影します」とサスキアは言う。丹念に作品を制作するため、これまでに9作品しか発表していない。どの作品も、表裏一体である虚実を操りながら、現実、認識、想像とは何かを問いかける。

編集部注:森美術館での個展では、「キロワット・ダイナスティー」(2000年)も上映。オオタファインアーツでは、新作「デッドライン」(07年)を5月31日まで上映する。


登録日:2008年05月27日